今年の8月の後半は、4つの国で4つの国際会議に参加します。その第1弾が、香港で開催中のこの ICPhS。この後は、一旦日本に戻って京都のアジア辞書学会(Asialex2011)で発表し、その後はヨーロッパに飛んで、エストニアのタリンでヨーロッパ日本研究協会の年次大会と、イタリアのフィレンツェで Interspeech2011 に参加して帰国、という予定になっています。4つのうち、自分が発表するのは1つだけです。
自分が発表しない学会に参加するのは結構つらいものです。自分の関心ある内容の発表があるとは限らないし、聞いている発表が自分の理解力を超えたものだと(そういうのは結構多いです)、自分が取り残されたような気分にもなるからです。
それでも、理解できる発表にはできるだけ質問をする。そうすることで、自分も参加しているという気持ちが出てくるし、気持ちも前向きになります。16日に行われたサテライト・ワークショップ “Coarticulation in New Varieties of English” では何も発言できずに落ち込んでいたのですが、昨日・今日と、1回ずつ質問することができて、やっと「自分も参加している」という気持ちになってきました。
僕が昨日した質問といっても大したものではなくて、幼児の音声に関する発表で、子音脱落の話しか出てこないので、自分の2歳の息子は子音で始まらないはずの音節に子音を付け加えているのだけれど、それはその理論でカバーできるんですか、と聞いたのでした。子持ちにならなかったら、この分野の発表を聞いて、更にコメントまでするなんてことはあり得なかったと思うので、僕も変われば変わるものです。ただ、理論に関する議論を仕掛けていた他の質問者から見れば、僕のは野次馬的ではあったかも知れません。僕の質問を聞きながらうなずいている聴衆が何人もいて気持ちはよかったですけどね。
今日の方が、自分の本来の問題意識からの質問ができたので、よかったです。中国語話者の英語音声コーパス構築についての発表があったのですが、イントネーションの表記が、英語用の E-ToBI そのままを使っているというのを聞いて、学習者音声なんだからイントネーションは英語でも中国語でもない interlanguage (中間言語)のはずで、それに英語のシステムを使うのはおかしいのではないか、自分も日本人英語音声コーパスを作っていて、中間言語のイントネーションの表記をどう工夫しようかまだ思いついていないのだけど…ということを言いました。
発表者は僕にずいぶんと感謝していましたけど、恐らくは、E-ToBIのまま、彼らのコーパス構築は進むような気がします。何しろ、簡単な答えはあり得ないのですから。彼らのプロジェクトは AESOP (Asian English Speech Corpus Project) というものの一部で、これには日本も含まれていることを知りましたが、ということは、僕はもっと急がなければいけないし、中間言語のプロソディー表記法をうまく考え出せば、そこが強みになるのかも…とも思いました。
僕は、この問題があるために、日本語話者英語音声コーパスの構築では、プロソディーを棚上げして、分節音だけで作業を進めています。しかし、いつまでも放置しておく訳にはいかないでしょう。さしあたり、E-ToBI と 日本語用の X-JToBI を合成したような体系を作って、実データでの記述を試みる、ということはしてみる必要がありそうです。英語にも日本語にもないような要素が入り込むのでない限りは、これで行けそうな気がするんですが…。しかし、分節音では、英語でも日本語でも起こらないような現象も観察されるので、ちょっと心配ではあります。
※このことについて Facebook に書き込んだら、John Wells が「これについて、明日あたり、君と議論がしたい」とコメントをつけてくれました。これはうれしいです。問題の解決への糸口が少しでも見つかるような議論にしなければ。
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