英語の音声に関する雑記帳

英語の発音について徒然と


英語の /dʒ/ と /ʒ/ の区別はどの程度重要か

『文レベルで徹底 英語発音トレーニング』の用例の中に、age が /ˈeɪdʒ/ でなく /ˈeɪʒ/ と発音されている例がある。もちろん規範的には誤りとされる発音だが、単なる言い間違いとして片付けていいのだろうか。言い換えると、英語の /dʒ/ と /ʒ/ の区別はどの程度重要なのだろうか。本稿ではこのことについて考察する。

/dʒ/ と /ʒ/ の区別の機能負担量は低い。母音間では virgin /ˈvɚːdʒən/ vs version /ˈvɚːʒən/, pledger /ˈplɛdʒɚ/ vs pleasure /ˈplɛʒɚ/、英音で ledger /ˈlɛdʒə/ vs leisure /ˈlɛʒə/、米音の一部で measure に /ˈmɛʒɚ/ のほか /ˈmeɪʒɚ/ という発音があり、これが major /ˈmeɪdʒɚ/ と対立する、といった最小対があるが、少ないものを無理矢理見つけた例という観は否めない。

また、その他の位置では、区別が必要な例が見つからない。

語頭は genre /ˈʒɑːnrə/, gendarme /ˈʒɑːnˌdɑɚm/ のようなフランス語からの借用語で /ʒ/ が現れるのを除いては /dʒ/ しか現れない(just, giant など)。

語末の場合、短母音の後では /dʒ/ のみが現れる。例としては ridge /ˈrɪdʒ/, edge /ˈɛdʒ/, badge /ˈbædʒ/, judge /ˈdʒʌdʒ/ と、米音では音声的に長いが音韻的に「短いo」と見なせる /ɑː/ を持つ lodge /ˈlɑːdʒ/ が挙げられる。片方しか現れないため最小対はない。

長母音の後については、まず /iː/ の後では prestige /preˈstiːʒ 〜 -ˈstiːdʒ/ のように /ʒ, dʒ/ の両方が現れる。/ɑː/ の後(つづり字 a に対応する、いわゆる broad a の場合)でも massage /məˈsɑːʒ 〜 -ˈsɑːdʒ/, 米音の garage /gəˈrɑːʒ 〜 -ˈrɑːdʒ/ のように両方が現れるが、mirage /məˈrɑːʒ/ のように /ʒ/ しか現れないものもある。この位置では [ʒ, dʒ] は実質的に自由異音の関係にあると言っていい。

/ɒː/ の後に /dʒ, ʒ/ を持つ単語は見つからない。/uː/ の後では、huge, scrooge, stooge で /dʒ/、luge, rouge で /ʒ/、deluge は /ˈdɛlˌjuːdʒ 〜 ˈdɛlˌjuːʒ/ と両方がある。

二重母音の後の場合、/aɪ, aʊ/ の後では /dʒ/ のみ現れる(oblige, gouge)。/oʊ/ の後では /dʒ/ を持つ doge と /ʒ/ を持つ loge に分かれる(但し英音では doge に /ʒ/ もある)。/ɔɪ/ の後では /dʒ, ʒ/ ともに現れない。/eɪ/ の後では 大部分(age, cage, page, rage, sage, stage, wage, gauge)が /dʒ/ だが beige は /ʒ/ を持つ。

rの二重母音の後では、large /ˈlɑɚdʒ/, George /ˈdʒɔɚdʒ/, gorge /ˈgɔɚdʒ/ のように /ɑɚ, ɔɚ/ の後では /dʒ/ のみが現れる。/ɪɚ, ɛɚ, ʊɚ/ の後では /dʒ, ʒ/ ともに見つからない。

弱母音の後でも /dʒ/ のみが現れる(college, language など)。garage の英音 /ˈgærɪdʒ/ もこれに相当する。

上記rの二重母音の後は、子音 /r/ の後という解釈もできる。他の子音の後に来る場合として、/l/ の後では bulge, indulge のように /dʒ/ のみが現れる。/n/ の後(change, hinge など)では [dʒ, ʒ] の両方があり得るが、これは基本は /dʒ/ で、咽頭から鼻腔への通路が閉じるタイミングのずれによるものとされる(そのため、辞書では /dʒ/ という基本形のみ表記するものと /(d)ʒ/ のように表記するものがある)。

語末で /ʒ/ を(少なくとも選択肢の1つとして)持つ単語は比較的新しいフランス語からの借用語である。Merriam-Webster で初出を見ると、prestige は1829年、massage は1860年、garage は1902年、mirage は1800年、beige は1819年、loge は1749年、luge は1905年、rougeは1746年となっている。つまり、語末の /ʒ/ はフランス語色のある単語であることの現れであると言える。

このうち、/ʒ/ に加えて /dʒ/ も現れる prestige, massage, garage は英語の語彙への統合度が高いと見なすことができる。garage の英音はアクセントの位置が語頭に移るという、もう一段の「英語化」が起きているが、これはこの語の初出が20世紀に入ってからであることを考えると驚くべきことだと言える。doge はイタリア語の方言から1549年に初出の単語で、フランス語起源でないが、見た目はフランス語起源と区別できないことが両方を持つ理由だと考えることができる。

以上、自分用のメモを兼ねて、個別の単語における生起を書き連ねたが、母音間の場合を除いて、/dʒ, ʒ/ で区別がされる最小対は存在しないことがわかる。

最後に、age が何故 /ˈeɪʒ/ と発音されたかの話に入る。実際のところ、本当の理由は分からない。/eɪ/ の後の多数派の発音から少数派の発音に移ったというのは、たまたまそうなってしまったというのが妥当なところだろう。

しかし、たまたまそうなることを可能にするような条件があったと言える面はある。語末で /ʒ/ が選択肢に入っている単語は、直前の母音が /iː, ɑː, uː, eɪ, oʊ/ であり、これらは長母音と二重母音に属するが、音韻的には /iy, ah, uw, ey, ow/ のような「母音+半母音」として分析されることがある。その意味で、これらの母音には共通点があり、単語によりばらつきはあっても、同じ現象が起こりやすいと言えるのである。

なお、「母音+半母音」と分析される母音としては、他に /aɪ, ɔɪ, aʊ, ɒː/ があり、今紹介した音韻表記の枠組では /ay, oy, aw, oh/ とされる。このうち、/oy, oh/ はそもそも次に /dʒ/ も /ʒ/ も語末で分布していないため問題にならないが、/ay, aw/ に関しては /dʒ/ の代わりに /ʒ/ を用いた発音が現れても不思議ではないのに、何故そういう発音が辞書に記載されている単語がないのかという疑問が湧くかもしれない。

これについては、フランス語には二重母音がないため、これらの母音にはフランス語色がなく、それ故に、そういうことは起こらないという理由付けができるだろう。逆に /ey, ow/ も二重母音だが、これらは音質の変化が小さい「狭い」二重母音であり、フランス語の単母音を取り入れる時の母音として普通に用いられているという意味で、二重母音ではあってもフランス語色と矛盾しないのだと言える(Kenyon はこれらを単母音として扱い /e, o/ と表記している)。

※/ah, oh/ の第2要素を /h/ とすることには音声的妥当性がないという批判がある。しかし、日本語の音素分析でも、長母音の第2要素を /H/ と表記することは行われており、抽象論のレベルでは、このようなやり方を排除する必要はないと考える。

長々と書いたが、/dʒ, ʒ/ の区別が、少数の単語の母音間で行われるに過ぎない周辺的対立であることは確かである。同じ有声破擦音と摩擦音の対立である /dz, z/ に多くの最小対(cards vs cars など)があるのとは違い、学習上の優先度が低いことは確かである。完璧を目指すなら習得するべきだが、そうでないのなら、他に優先すべき音の区別がたくさんある点は認識してよい。少なくとも、カナ表記を使うようなレベルの発音学習で、わざわざ「ジ」「ヂ」を書き分けて学ばせようとすることに意味はないと考える。



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