主に1980年代に活躍したイギリスの女性ボーカルグループBananarama。代表的なヒット曲は恐らくこの Venus (1986年リリース)でしょう。
日本では、後に演歌歌手になる長山洋子がアイドル時代にカバーしてヒットしたことでも(少なくとも僕の世代の人たちには)知られていますが、それはともかく。
当時の僕は洋楽を聴くときに歌詞をほぼ無視していたので分からなかったのですが、後年この曲を聴いたとき、イギリス発音に一部アメリカ発音を混ぜて歌われていることに気がつきました。
まずは出だしの Goddess on the mountain top の部分(0分20秒~)。最初の Goddess の god- と最後の top は同じ母音を持つはずですが、明らかに違う音です。具体的には、goddess はアメリカ発音の [ɑː] を含む [ˈgɑːdes] 、top はイギリス発音の [ɒ] を含む [ˈtɒp] になっています。
また、mountain は [ˈmæːnten] となっていますが、mount- の母音 /aʊ/ を [æː] とするのはいわゆる popular London speech の発音です。また、-tain を鼻腔解放による [tn] ではなく、母音を入れた [tən] とするのもイギリス的です(ここでは [ə] でなく、はっきりした母音の [e] になっていますが、これは歌だからでしょう)。
The summit of beauty(0分28秒~)では、summit と beauty の /t/ が弾音化しています。弾音化はアメリカ英語の特徴とされますが、これは最近のイギリス発音では比較的聞かれるようになっています。但し、この曲が歌われた1980年代中盤にどうだったのか、僕には分からないので、これがアメリカ発音を混ぜた結果なのかどうか、はっきりと言うことはできません。
最後に、サビの She’s got it(0分35秒~)。ここは [ʃizˈgɑːɾɪt] となっており、got はイギリス発音の [ɒ] ではなく、アメリカ発音の [ɑː] を含んでいます。語末の /t/ は弾音化して [ɾ] になっていますが、上の beauty と同様、これがアメリカ発音を混ぜた結果なのかは何とも言えません。
Bananarama は何故このような発音で歌ったのでしょうか。それは分かりませんが、サビの She’s got it に関しては意図的にアメリカに寄せたという印象があります。出だしの Goddess と top の食い違いに関しては、本当に謎ですね。レコーディングである以上、プロデューサーの意図によるものなのでしょうが…。
他の曲ではどうなのかと思い、もう一つの代表曲である I heard a rumour (1987年リリース)を聴いてみました。
サビの2フレーズ目の They say you got a broken heart (0分52秒〜)を見てみると、got は [ˈgat]、broken は [ˈbroːkən]、heart は [ˈhɑːt] と発音されています。Venus の場合と違い、got はアメリカ発音ですらなく、あたかも gat という綴りの単語になってしまったかのようです(恐らく、gat が got の古形であることは意識されていなかったでしょう)。
broken の発音はアメリカ音に寄せたものだと思われます。heart はイギリス発音です。そしてこの曲では /t/ の弾音化が数多く聞かれます。ここまで多いと、さすがに当時のイギリス発音がこうだったとは言えないと思います。
この記事に特に結論のようなものはありませんが、40年ほど前の音楽シーンに、このような英米混淆の発音の使用があったことを指摘したかったのです。今はどうなのかということにも興味はありますが、僕もかなり洋楽に疎くなってしまったので、たまたま興味深い曲に出会えれば幸いといったところでしょう。
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