2006年1月、大学入試センター試験において、初めて英語リスニング試験が行われた。世間では、試験実施の技術的問題ばかりがクローズアップされているように見えるが、私自身は、ここで現れる発音がどのようなタイプのものであるのかに、より関心があった。
日本の英語教育では、一応アメリカ発音を暗黙のうちに扱っていると考えていいと思う。英和辞典の発音表記もアメリカ発音が優先だ。また、アメリカで発行されている、留学生・移民向けの発音教本も、pom=palm である点を除いては、同じタイプの発音を教えている。
しかし、アメリカのあちこちに足を運んだときに耳にする発音や、日本で一般向けに刊行されている英語教材に収録されている音声を聞いていると、どうもその「教えられていることになっている」発音があまり聞かれないような印象を以前から持っていた。その最たるものが、cot の母音と caught の母音の違いについてだ。アメリカ西部では両者は同じ発音になるが、一般用教材では、本では「違う発音」として扱われながら、付属音声を聞くとほとんどの場合両者の区別はないという印象を持っている。
つまり、辞書に記載されているような発音は、我々が実際に出会うアメリカ発音とは食い違いがあるのではないか、我々は、不要な区別をわざわざ学んでいるのではないか。そのように考えたわけである。方法論的に疑問なしとはしないとはいえ Atlas of North American English が刊行され、曲がりなりにもアメリカ発音の全容を概観することが可能になったのと時を同じくして、入試という形でターゲットとなる発音が提示されたので(もっとも、センター試験の吹き込み者が、持っている発音のタイプを理由に選ばれたという可能性は低いのだが)、この際、センター試験のリスニング音声の性質を調べ、「学んでいる発音」と「ターゲットとして示されている発音」の間にギャップがないかどうか調査をしてみようと、私は考えたのである。
大学入試センターのリスニング問題の音声はここで聞くことができる。 スクリプトもある。 僕がやっている作業は、何のことはない、この音声を簡略音声表記して、どのようなタイプなのか見極めることである。現在、作業は3分の1まで終わったというところ。しかし、これだけでも傾向は見えた。次のようなものである。
日本の英語教育では、一応アメリカ発音を暗黙のうちに扱っていると考えていいと思う。英和辞典の発音表記もアメリカ発音が優先だ。また、アメリカで発行されている、留学生・移民向けの発音教本も、pom=palm である点を除いては、同じタイプの発音を教えている。
しかし、アメリカのあちこちに足を運んだときに耳にする発音や、日本で一般向けに刊行されている英語教材に収録されている音声を聞いていると、どうもその「教えられていることになっている」発音があまり聞かれないような印象を以前から持っていた。その最たるものが、cot の母音と caught の母音の違いについてだ。アメリカ西部では両者は同じ発音になるが、一般用教材では、本では「違う発音」として扱われながら、付属音声を聞くとほとんどの場合両者の区別はないという印象を持っている。
つまり、辞書に記載されているような発音は、我々が実際に出会うアメリカ発音とは食い違いがあるのではないか、我々は、不要な区別をわざわざ学んでいるのではないか。そのように考えたわけである。方法論的に疑問なしとはしないとはいえ Atlas of North American English が刊行され、曲がりなりにもアメリカ発音の全容を概観することが可能になったのと時を同じくして、入試という形でターゲットとなる発音が提示されたので(もっとも、センター試験の吹き込み者が、持っている発音のタイプを理由に選ばれたという可能性は低いのだが)、この際、センター試験のリスニング音声の性質を調べ、「学んでいる発音」と「ターゲットとして示されている発音」の間にギャップがないかどうか調査をしてみようと、私は考えたのである。
大学入試センターのリスニング問題の音声はここで聞くことができる。 スクリプトもある。 僕がやっている作業は、何のことはない、この音声を簡略音声表記して、どのようなタイプなのか見極めることである。現在、作業は3分の1まで終わったというところ。しかし、これだけでも傾向は見えた。次のようなものである。
- /ɑ/ と /ɑː/ の対立、言い方を変えれば bomb と balm の対立は現れてこない。どちらかのグループに属すると綴り字から判断できるものはあるが、直接長さで区別されるものがないということだ。実質的に、この対立はないと言っていいだろう。「ある」と考える方が却って難しい。日本の全ての辞書や教科書の発音表記には根拠がないと言っていい。
- /ɑː/ と /ɔː/ の対立はなく、全て /ɑː/ と発音されている。僕が常日頃、色々な教材で出会っている発音と同様、辞書や教科書の発音とは違っているということだ。
- /r/ の前での /æ/ と /ɛ/ の対立がなく、両方とも /ɛ/ になっている。つまり、marry は merry と同じに発音されるということだ。例としては、Paris が辞書にある /ˈpærɪs/ ではなく /ˈpɛrɪs/ と発音されている。なお、辞書には Mary /ˈme(ə)ri/(ないし /ˈmɛ(ə)ri/) という表記もあるが、これはアメリカでは括弧の中の /ə/ を生かさないということなので、元々 merry と同じである。
結局、僕が1月19日の記事で書いていた、『北米英語地図』から推測される多数派の発音が現れているということだ。もちろん、大学入試センター試験のリスニングの発音がこうだから、これを教えなければならないというものではないが、これ自体アメリカで多数派と思われる発音と一致していることから、日本の辞書や教科書では少なくとも3種類の不要な区別をしており、検討の余地があるだろうということだ。
2について言えば、発音練習で boat /boʊt/ vs bought /bɔːt/ という区別が扱われるのが定番となっており、それでもなかなか区別に苦しむ生徒が多いと思われるのだが、これを取り入れて /ɔː/ を /ɑː/ にしてしまえばはじめからこのような問題は起こらない。よしんば日本語の母音に還元してしまったとしても、「アー」と「オウ」の混同など起きようがないからだ。つまりこれを取り入れることで、発音は易しくなる。しかも、これは日本人に区別が難しいから仕方なくというのではなく、アメリカに広く存在し、教材や入試にも現れる発音なのだ。これを取り入れない手はないと思うのだが、どうだろうか。
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