日本音声学会が「指導要領に定める英語音声教育実現のための提言」を今年の5月25日付で文部科学大臣に提出しました。大学にもよりますが、教員養成課程で、必ずしも音声学を学ばなくても教職免許が取れてしまうという現状を改善して欲しいという内容です。結びの部分は
文部科学省が定めている教育内容を実践するために不可欠な知識が、英語教 育職員免許取得に要求されていないことは大きな矛盾と言わねばならない。 (中略) 英語の教育職員免許取得のためには「音声学」「英語音声学」 など、音声についての科目の履修を必須とすることをここに強く提言する。
のようになっています。音声学会だから「音声学」を求めているわけですが、同様のことは「文法」にも言えるはずです。
僕は、上記のことは、最低限の「必要条件」だと考えています。しかし、現在の問題はそれほど単純ではないのかもしれません。
学校での発音教育について、僕は10年前にこのブログの中でこんなことを書いていました。
はっきり言ってしまえば、中学1年生に対する発音指導は容易である。教員自身の発音が良く、発音に関する体系的知識を持っていればという条件は付くが、中1ならまだまだ耳はいいので、簡素な説明だけで、あとは正しい音を与えれば、正しい発音をいとも簡単に出してくれる。何も小学校から英語を始めなくても、こうした条件さえ揃えば発音に関しては中学からで十分である。(逆に、こういう条件が揃わなければ、小学校から始めても結果は同じだろう。小学校英語推進派の最大の拠り所が「発音」にあるのだとしたら、彼らはとんでもない誤解をしていることになる。)
(「発音指導と音声学」より)
これは、大学院生時代に中学1年生を教えた時の経験に基づいています。
しかし、あの時中1に発音を教えるのが容易だったのは、生徒たちが(正式には)英語に触れること自体が初めてだったからなのかもしれません。
現在では「外国語活動」(?)の名目で、生徒たちは多くの場合小5から英語に触れています。それがきちんと教えられているとは到底思えないので(そもそも、教えていないという建前になっているわけですよね?)、中学に入る時点で既に発音にはある程度の「化石化」が起こってしまっていることでしょう。その意味では、現在では発音は中学に入ってからでは「間に合わない」という状況になってしまっているのだと思われます。(修正不可能という意味ではないですが。)
それを防ぐには、小学5年で初めて英語に触れるときにきちんと教えるしかないのだと思いますが、小5というのは、どの程度「メタ言語」を理解し使うことができるのでしょうか。普通に考えて、中1ほどには使いこなせないのでしょうね。
だとすると、中1に対する発音の教え方を小5にそのまま使うことはできないでしょう。一方で耳は中1よりもいいので、より「闇雲に真似る」ことに頼る割合が増えるでしょう。ということは、「教師の発音の良さ」に、中学でやるより高い水準が要求されそうです。
そして、現在既定路線になっているように見える、小5から正式教科で英語をやり、小3から外国語?英語?活動をやるという話。
これが実行されると、発音は初めて英語に触れる小3でやらなければきちんとやれないことになるでしょう。メタ言語は更に通じず、耳は更にいい。教師は更に「良い」発音ができる必要があり、真似だけではうまく行かない場合のアドバイスの難易度は更に上がる。
本当に大丈夫なのでしょうか。
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