英語の音声に関する雑記帳

英語の発音について徒然と


「オーバードーズ」表記について

若者を中心にした市販薬の過剰摂取が社会問題になっています。ニュースによく出てきますし(たとえばこんな記事)、また、東京都もこのような発信をして、少しでもその解決を図ろうとしています。

ここでは、この過剰摂取が「オーバードーズ」と呼ばれていることについて、思うところを書きます。出発点としては、元になっている英単語 overdose の発音は /ˈoʊvɚˌdoʊs/ と、語末の子音は /s/ なので、濁音「ズ」は原語の発音からは妥当でなく、できれば「オーバードース」として欲しいと思います。(それ以前に、何故わざわざ文字数の増えるカタカナ語を使うのかという疑問もあります。)

しかし、国語辞典でも「オーバードーズ」で見出しになっており、dose も「ドーズ」として載っているため、完全にこれらの形で定着してしまっています。今さら修正するのは恐らく不可能だと思います。

何故このようなことになるのでしょうか。実は、英語の単語で、語尾が -ose となっているものは少なくとも易しめの単語ではほとんどが /z/ を末尾子音として持っているのです。nose, rose, hose, pose, those, suppose, expose, oppose, enclose, disclose, arose など。他に lose, purpose, whose のような例外的な発音もありますが、ここでは <o> を長音読みするものの話をしています。

このうち、hose は overdose とは逆に、末尾子音が /z/ なのにカタカナ語が「ホース」と清音になっている興味深い例です。

実際には、-ose で末尾子音が /s/ になる単語もたくさんあります。(over)dose のほか、glucose, fructose, sucrose, maltose, lactose, cellulose など糖分の化学名、deoxyribose, ribose のような生化学物質、更にgrandiose, verbose, comatose, bellicose, morose, jocose, viscose, adipose など、難しい単語ばかりです。

その他、diagnose は /s, z/ の両方の発音があります。逆成元の diagnosis の発音から、/s/ になることの方が多いようです。

そのようなわけで、多くの人にとってなじみ深い単語は軒並み -ose の末尾子音が /z/ になっています。「オーバードーズ」表記はそこからの類推あるいは過剰般化が元になっていると思われます。(しかし、glucose が「グルコーズ」にならないのは、他の糖分も含めほぼ専門家しか使わない語群だからでしょうか。)

close は、よく知られているように「近い」という形容詞なら /s/、「閉じる」という動詞なら /z/ です。しかし、形容詞を /kloʊz/、その比較級 closer を /ˈkloʊzɚ/ と発音する学生が後を絶ちません。これも、知っている -ose の単語がみな /z/ を持っているため、それに引っ張られてしまっているのでしょう。

(逆に、hose は /s/ で発音してしまう例が多いように思います。これは明らかにカタカナ語「ホース」の影響ですね。)



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